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カメラ漫画夜話 第七話 ビッグコミック×藤子・F・不二雄SF短編集

(藤子・F・不二雄 小学館)

 前々回に続いてもう一度藤子作品を取り上げることになりました。トピックの特性上、下巻収録の「夢カメラ」シリーズ(ビッグコミック'81.7〜'83.3に不定期連載)についてのお話になりますが。前にも書いた通りこちらは中央公論社で氏の作品をまとめた「藤子不二雄ランド」のシリーズの一冊として刊行されたこともありましたが絶版になり、一連のシリーズが今年四月くらいにこうして単行本化されたことで、私は初めて原作を読めることになりました。
 これまで三回に渡ってドラマ化されており、月曜ドラマランド版('86〜'87年放送)は全く見ていなかったので分からないです。常連はイッセー尾形で中山美穂、荻野目洋子、冨田靖子、小泉今日子、南野陽子と錚々たるキャストだったようですが。
 渡辺美奈代主演のは見てました。家の物置に眠っていたカメラが起こす不思議を描くという内容で、話もオリジナルでした。一話の「恋人カメラ」は原作の「同録スチール」に似てるかな? と思いますけど。ええ、美奈代の写した好きな男の写真がしゃべるという内容でした。
 三度目の映像化になった長澤まさみ主演のドラマでは原作が丁寧に再現されてましたが……こうなるとアニメ版も見たいです。ヨドバ氏(後述)は肝付兼太氏で。

 そもそもこの漫画、二十世紀に時間旅行ツアーにやって来た未来人で、カメラのセールスをしているヨドバ氏が、ある事情から帰れなくなって口を糊するために不思議なカメラを行く先々で売り歩くというのが大筋になってます。全九回の不定期連載で、いずれも主題は未来を想定したSFであって登場するカメラはむしろ「ドラえもん」や「キテレツ大百科」に登場しそうな変わったデザインが多いです。例外として「値ぶみカメラ」には写真家である主人公とそのボーイフレンドの商売道具としてペンタックス6×7+500mmが登場していますが、ふーんこんなカメラ使ってるんだというのを探す楽しみはほとんどありません。なので楽しみはむしろメカ描写と言うよりはそのカメラの持つ特殊能力です。実際ヨドバ氏にカメラを売られに来た顧客はその魅力に取りつかれたようにのめり込むことになります。時にそれがヒューマニズム的な意味で恐ろしい結末になることも少なからずありますけど(ドラえもんでもよく見るパターンですね)。
 ではビッグコミックの読者向けに描かれた「裏ドラえもん」かというと必ずしもそういう訳でもなくて、泣けるオチが用意されているのもあればほっとする話もあり、いい話だなと思える話と終わり方は様々です。それは皆様で読んで確認してください。

 それにしても氏の漫画に登場する「どこか抜けててそれがために憎めない」定番のキャラクターと言えるのがヨドバ氏です。未来から現代に取り残されて日々の食事にも事欠くほど困っていて(現代で通用する有価証券を持っていないので)、その頃まだ一家に複数台というところまでいっていなかったカメラを売って一儲けしようといつも企んでいるものの、思惑通りに儲けたことがほとんどありません。例外はある客に父親に泣き付いて不動産を売って金作りなさいよと唆した時と、別の客に退職金前借りさせて百万円用意させた時ですか。大抵はダンピングの果てに数日食いつなげるくらいの金が入ればいい方という結果に終わってます。ある時はたった二桁で子供にカメラ売ってますし。二十年前の百万円一括払いで何が買えたろうかとか考える前にそれでヨドバ氏の生活は遣り繰りできてたのかと心配ではあります。まあいくらかの蓄えはあったのでしょうけども。

 今ネットショップで在庫を調べてみたら品切れで絶版中のようでした。オクにも出る確率は少なそうなのでこまめにチェックしていただく他なさそうです。遠からず再版はある、と信じたいですが。
2009年8月9日 12:46 こーちゃん (4)
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