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カメラ漫画夜話 第十三話 LOCK ON!

(土田健太 集英社ジャンプコミックス 全2巻)

 ピント、露出、シャッターチャンス、この三つの要素のどれが欠けても写真作品としては成立し得ないし、一期一会の撮影において撮影する段になってそのミスはどうしても取り返せるものではない。私は無駄に重ねたキャリアの中でそう感じています。ピントと露出ならまだしも、シャッターチャンスをものにできたということがなかなかないということもあって、この三つの中でもとりわけ大事なのはシャッターチャンスだと思っている訳で。これが必ずしも私個人の意見ではないということは、カメラメーカーがフールプルーフのためにフィルム送り、露出、ピントを自動化せしめて、その分使用者がシャッターチャンスに専念でき得るという方向にカメラを進化させていったという事実からも分かりましょう。歴史とともに新聞記者はスピードグラフィックからニコンFに乗り換え、一家のお母さんは家族写真のために一眼レフよりジャスピンコニカやキヤノンオートボーイを選んだ事実から。
 そうした進化を遂げているカメラにも匹敵する「眼」を持ち、一瞬の違いを見分け、一度脳のメモリーに記憶した映像を忘れない天才写真家がいたら? そしてその先に彼が見る物は?

 今回紹介する「LOCK ON!」は週刊少年ジャンプで年が明けて少し経ってからの新連載としてスタートした、高校生プロ写真家の真田映(さなだ うつる)を主人公とした学園ラブコメでした。公然と女子高生の写真を撮りたいがために高校に入学したという自他ともに認める変態少年の映。それだけにメインヒロインの栗原ニコとの出会いも最悪なもので、
「お前の外見が好きだ! 写真を撮らせてくれ!」
 こう発言した映はニコの逆鱗に触れて、しまいに蹴りを入れられます。昔から悪い男に言い寄られることが多く、それが嫌で男嫌いになり、空手も習得した過去があるヒロインでしたから。それでもニコの友達の白井雪は映を笑顔で受け入れて、映が女子高生向けファッション雑誌お抱えの写真家であることを知られてからはクラスでも一目置かれる存在になりました。
「真田君がスカウトした娘は売れるって業界では有名らしいよ!」
 この雪のセリフの通り女の子、どころか人を見る目は確かで、全編を通して「シャッターアイ」と呼ばれる右目の超人的な視力をを軸に真田映という少年の姿が描かれていきます(尤も酷使すると鼻血が出る上、ひどい時は眼精疲労を起こしてピントがボケて頭が痛くなる体質ということで、普段は坂本少佐のように眼帯で隠してますが)。一瞬の変化も見逃さないが故にシャッターチャンスに強いだけではありません。唇の動きを見て発言を解析できれば、会話に立ち会うだけで人が本音で話しているか演技かを見抜くこともできる。街中で雪が拉致された時も何人もの道行く人に無言で雪の写真を見せて、
「この娘さっき見たぞ」
 という反応を示した人を追っていくことで救出に一役買っています。
 そういう尋常ならざる眼力の持ち主で、変態ではありますが撮影許可がなければ写真は撮らない、相手が堅物教師でも学校一の不良でも臆することなく筋を通す一面もあり、この点は明らかにジャンプ向きの主人公であると言えましょう。後にこの二人も映の味方に付くことになりますし。
 その後新ヒロインとして普段は地味で大人しいけど仕事をする気になると性格がガラリと変わって大胆になる女子高生モデルの日々野祭が登場し、彼女が映に想いを寄せていることからニコとの鞘当てが始まり、写真部として活動するに当たって部室をどうするかで新聞部と一悶着あった後に部長が映に興味を示す、と、これから先面白そうだと思わせられる伏線もあれば「ToLoveる」程ではないにせよたまに読者サアヰ゛スもあったはずなのに、読者人気投票で票を稼げなかったのが災いして18回で打ち切りの憂き目に遭いました。本稿を書くに当たってジャンプ読者の集会所になってるブログで関係するエントリを読んでみたのですが(私は「ドラゴンボール」がバトル漫画に看板を塗り替えて以降「ToLoveる」と「DEATH NOTE」しか読んでいなかったので)、前評判から今一つ良くなかったようです。元々面白ければ割と何でもありのよそ様とは違って、ジャンプの漫画ではある程度ジャンルが限られていてそこから大きく外れているような作品が育ちにくい土壌は確かにあると毎回読んでいて思うとの声もありました。それがいいか悪いかを論じるのは本稿の主題ではないのでやめておくとしても、LOCK ON!自体に関して言えば個人的にですがラブコメとしての出来はよかったと思ってますし、他誌ならもっと続いたんじゃないだろうかと思うのですが。

 本来は映の超人的な眼力が主題でカメラがメインを張ることは少ないのですが、商売道具としてのカメラは登場してます。ニコンD5000+18-55mm。作者は実機を見てきちんと描かれていると見えて、スイッチとかバリアングルになってるモニター(それを利用するようなカットはありませんでしたが)も丁寧に描いてあります。映がカメラを持っている場面となるとキットズームがいつの間にかノクトニッコールになってやしないか、という細かいミスも多少はあるにせよ、人とカメラの比率がおかしいということはまずありませんでした。スタジオで祭を撮る話ではニコンF4らしい、もう少し上等そうなカメラを持ち出している描写もありましたが……欲を言えばこれももう少し丁寧に描いていただきたかったですかな。

 掲載誌補正抜きで読むならごく普通に楽しめるラブコメなので、そういうジャンルがお好きな方になら普通に勧められます。私は話も絵面も好きで毎週楽しみにしてたのですけどもね。先ほども書いた通り本稿でジャンプの現状について云々するつもりはありません。主観的に現状では付いていけないと思いこそすれ。
 次回では「ブレット・ザ・ウィザード」「東京シャッターガール」辺りを取り上げたいと考えてます。
2010年9月5日 21:16 こーちゃん (4)
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